フクギ並木の小さな家
昨年3月に、クリニックの保養施設が今帰仁今泊に完成した。私は「今泊別邸」と称してはいるが、1ベッドルームの平屋の小さな建物で、和室を利用すれば、2家族は宿泊できる程度のものである。昔から芝生のある家が夢だったので、比較的広い、とは言ってもせいぜい70坪ほどの芝生の庭を設えた。芝生の庭に面して、ちょっと広めのウッドデッキ(朽ちるのを考慮し人工デッキ材使用)があり、そこには、グランピングテントという大型テントが設営できるようになっており、そのテントの床面積が12畳程度で、家具なども持ち込めるので、どうにか3家族は寝泊まりできる。「小さくて狭いので、むしろアットホームでしょ」という言い訳をしながら、昨年11月に旧知の2夫婦を招待し、非日常の時間と空間を共有する楽しい時間を過ごすことができた。
年末年始の楽しみは、家族全員一度に集えることである。今回は1月2日と3日に「今泊別邸」で集合。もうすぐ98歳になる母は足腰の衰えを愚痴にするも、医学的に判断すると百点満点の健康体。息子、娘とも昨年は大学を卒業し、社会人1年目として初めて迎えるお正月である。お年玉をあげなくて済む経済的幸せを感じる両親を横目に、娘は薄給ということもあり、誕生日(1月4日)のプレゼントを割り増しに要求。というかもうすでに誕生日の前借プレゼントを何度かしているのだが、、、。
夕食はグランピングテントで、しゃぶしゃぶ鍋を囲んだ。今年は、私たち夫婦、息子、娘、母に加えて、うれしいことに参加者が1名増えた。息子のお嫁さんである。昨年籍を入れ、同じ職場で働いている。先月、新婚旅行を兼ねてホノルルマラソンに参加したという。仲が良さそうで微笑ましい。ほろ酔い加減で中座し、テントを出ると、樹高10mに届かんとする立派なフクギ並木が、漆黒のシルエットで生垣を作っている。マグリッドの『光の帝国』を髣髴とさせる。西暦1600年過ぎに薩摩侵攻で今帰仁城が陥落した時、城下町であった、今帰仁と親泊の人々が、少し離れた海岸沿いのこの地に新しい集落をつくり、両村の文字を取って今泊となった。その際植樹されたフクギは、樹齢400年を超え、集落のあちこちにその堂々とした姿を呈し、備瀬のフクギに匹敵する景観を与えている。この土地を購入したきっかけは、このフクギの並木が気に入ったからだった。今回の外構工事で、この並木の隙間を埋めるように高さ2mのフクギを植栽したのだが、既存のフクギに比べると細くて頼りない。でもそのフクギも、あと400年も経てば、立派な生垣となる。自分の命が尽きても、息子、娘、そして彼らの子孫たちが、このフクギの佇まいを引き継いでくれるだろう。おおらかで豊かな気持ちに包まれた。そして少しだけ寂しくなった。
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